ロシア/スポーツ/映画

先日の研究会で、ロシア出身のハリウッド監督アナトール・リトヴァクについての報告をしたら、司会の先生に「専門が何なのか、いよいよ分からない」と紹介されてしまいました(笑)。大学院時代の私の生活はロシア文学、映画、野球観戦の三本立てでその軸は未だにぶれていないのですが、ロシア文学も当時は1920年代限定だったのが、その後、19世紀や現代にも手を出してきたし、さらに「サハリン」みたいなローカルなテーマも抱えることになったので、中華もフレンチも出す怪しいレストランみたいになっているかもしれません。
 昨日の授業は1校時がロシアの現代作家スラヴニコヴァの「チェレパノヴァの姉妹」の講読(ロシア語専攻)で、2校時の1年生ゼミ(スポーツ文化専攻)のテクストに選んだのが原田宗彦『スポーツ都市戦略』で、3校時には10月に某所で行う報告のためにサハリンを舞台にした社会主義リアリズム小説『こちらはもう朝だ』を図書館で借り、5校時は表象文化論の授業(現代教養・異文化コミュニケーション専攻)でエジソンリュミエールによる初期映画を見ました。さすがに盛りだくさんすぎる1日だったので、帰宅するなりジョギングもできずに寝込んでしまったのですが、今学期はこういう日があと14週、続くのですね。鍛えられるなあ。阿修羅像でも買ってみようか?
 でも、今の札幌大学の長所はやはり学際性だと思うので、フルスロットルで頑張ります。

巡りゆく日本の夢

 娘を連れて、人気のゴッホ展に行ってきた。

 狂気の産物としか思えぬ歪んだ絵もあったけれど、意外と明るい色調の絵が多かった。

 今回の展覧会はゴッホと日本文化の関わりを問うもので、ゴッホは浮世絵の明るい色調に魅せられてアルルに転居したそうだから、まあ、そういう絵が選ばれているのだろうけれど、小学校で読んだ伝記や中学の美術の教科書で刷り込まれたゴッホのイメージはやはり変わる。

 「伝記」と書いたのはたぶん藤沢友一『太陽の絵筆』で、1979年の中学校の課題図書になっていたのを、小6の時に海辺の田舎町で背伸びして読んだのだ。その時の私は伝記は読んでいたが、自分が本物のゴッホの絵を見ることができるなんて、想像もしていなかった。そういうことができるのは、パトラッシュと一緒に凍死するネロくらいだろうと思っていた。

 娘も今は小6なのだけれど、伝記を読まないくせに本物の絵を見てやがる。いや、羨ましいぞ。

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ブラリンゴ

 北海道新聞永田販売所の実施している「ブラリンゴ」に参加してきた。南平岸の街歩き。

 永田販売所は「道新りんご新聞」というミニコミ紙を出していて、紹介されたスポットもひとつひとつは、すでに紙上で読んだことのあるものが多かったのだが、テクテク歩くことで、それらを結びつけた展望をつかむことができた。

 平岸というと平岸駅のあたりかと思ってしまうのだが、もともとは南平岸駅のあたりが中心だったらしく、小学校や最初の商店である木村商店(清水商店)があり、月寒と平岸を結ぶ「アンパン道路」も1911年にこの地区に作られている。

 かつては地下鉄南北線に沿って小泉川という川が流れていたそうで、その川の西側の低地がリンゴ畑、東側の高台が田だったそうだ。私が今、住んでいるのは高台側で、私の家の建っている土地もかつては田んぼだったらしい。

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 南平岸がロシアと関係の深い場所だったというのも、知ることができて良かった。第一次大戦中や革命後の内戦期にリンゴをロシアに輸出することで平岸は繁栄したのだそうで、平岸の作家である澤田誠一が『商館』という小説にそのことを書いているのだという……読まなくては!!

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 また、作家の家の近くにはかつて、日ソ友好会館があったのだそうだ。そんなことを知っていて、兵頭ニーナさんも「ペチカ」を南平岸にオープンしたのだろうか?

 明治期の平岸の写真に写る、木々の高さも圧倒的だった。もっと以前には天神山にアイヌのチャシがあったのだという。

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 精進川の滝も、写真で見るよりずっと風情のあるものだった。平岸は川向うの札幌の中心部とは一味違う、面白い地区だ。ロシアと関わりがあったというのも、何かの縁だろう。広い札幌の中でも、ここに住むことを選んで正解だったなと改めて思う。

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維納に音楽は踊る

 昨日の夜は、「ウィーン維納に音楽は踊る」と題した札幌交響楽団定期演奏会を聴くために、キタラに行ってきた。

 プログラムがね、面白そうだったんだ。スッペ「喜歌劇『ウィーンの朝・昼・晩』序曲」、グルダ「チェロとブラスのための協奏曲」、ブルックナー交響曲第1番(ウィーン版)」。ウィーン版の1番はそんなに聞けるものではないし、グルダの協奏曲は変な曲らしい。

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 そんな選曲をしたのは指揮者の下野竜也さんで、私は3年前に札幌に滞在していた時もこの指揮者による、早坂文雄の交響組曲ユーカリ」という誘惑に負けていた。今後も型破りのプログラムを作ってくれそうだし、そういう時は進んで罠にはまってみよう。

blog.goo.ne.jp

 若杉弘が昔、都響で啓蒙的なプログラムを組んでいたのを思い出すのだけれど、下野さんの選曲には遊びがあるのが良い。「ユーカリ」とセットになっていたのは、「スターウォーズ組曲だったし……昨日のグルダの協奏曲も評判通りの、ポップでハチャメチャな曲だった。そして、チェロの宮田大さんが、そんな遊びを良い意味で台無しにしてしまうほどの上質の音を出してくれた。

 メインのブルックナーも安定していた。良いコンサートだった。

雨の日が続く

 台風が過ぎたのだが秋晴れの空にはならず、昨日、一昨日と雨だった。

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 大学の図書館には山口昌男・元学長の書斎が再現されたのだが、ドアや窓を模した部分も設けられていて、その窓から見える木々がとても美しい。

 東大や北大に比べれば小さいキャンパスなのだが、きれいなスポットがたくさんある。

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連休最終日は台風が

 連休初日は科研の研究会だった。自分の発表以外に会場や懇親会の準備なども担当していて、完璧な進行というわけにはいかなかったのだが(普段授業で使っている教室ではないため、機材の使用法が完全にはわかっていない)、それでも何とか終えることができた。

 2日目は疲れていたので、何もせずずっと寝ていた。少しだけ本を読んで、また眠る。海外出張に研究会開催とバタバタしていたので、少し休まないと体を壊してしまう。

 3日目は台風が北海道を直撃したのだが、子供のスキーチームのチューンナップ講習会があったので、区民センターに行った。基本的な流れは知っているのだけれど、ファイルの持ち方とか、アイロンを押す強さとか、デリケートなところが勉強になった。

 朝から夕方まで続いた講習会が終わったら、台風も過ぎて、雨も上がっていた。体調も良くなったので、久しぶりにジョギングをした。

明日はリトヴァク

 明日はロシアの亡命文化をテーマにした研究会が札大で開催され、私も「アナトール・リトヴァクとロシア文化」と題した報告を行うことになっている。

www.sapporo-u.ac.jp

 サハリンに行ったりしていたものだから、昨日、今日の2日でパワーポイントを慌てて作ることになってしまったが、無事に完成した。

 リトヴァクを取り上げることにしたのは、これが諫早勇一先生の主宰する研究会だからで、つまり、諫早先生といえばやはり『ロシア人たちのベルリン』であるからだ。ハリウッド監督リトヴァクを育てたのは、ベルリンの亡命ロシア社会なのである。

 明日の報告では『白魔』、『トヴァリッチ』、『ロシアの戦い』、『追想』、『旅』といったロシアに関係する作品を取り上げることになるわけだが、ここにはそれと関係のない話を書いておこう。

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 私は1980年代後半の東京で、シネフィルに混じって映画を見ていたのだが、『マリ・クレール』の座談会をまとめた『映画千夜一夜』が当時刊行され、その中で蓮実重彦がリトヴァクの『想い出』と『暁前の決断』を絶賛している。

 また、当時はダニエル・シュミットも流行っていたのだが、シュミットの『今宵かぎりは』はヤン・キープラの歌を使ったもので、その歌を主題歌にした映画『今宵こそは』(1932)を監督したのがリトヴァクである。

 1987年の『八月の鯨』で甦ったベティ・デイヴィスとかつて浮名を流していたのも、リトヴァクである。

 80年代の私がロシアと無関係だと思っていた映画が全部、ロシア出身のリトヴァクとつながっていたのだよね。私の20代は、明日の報告のためにあったようにすら思えてくるのだ。

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 リトヴァクの映画を全部見たわけではないが(それでも25本は見た)、好きなのは、ニューヨークの夢と挫折を描いた『栄光の都』と精神病院を舞台にした『蛇の穴』である。これはいずれも日本版のDVDが発売されている。

 ベティ・デイヴィスの『黄昏』は上記2作品ほど重い内容ではなく、安心して見られる。こういう映画ばかりずっと見ていられたら、さぞかし幸せだろう。

youtu.be

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 2014年にヘップバーン主演のテレビドラマ『マイヤーリンク』が日本で劇場公開されているようなのだが、あの監督もリトヴァクである。ただ、あれはリトヴァクの本領を発揮したものではない。メル・ファーラーの大根ぶりもあるが、時間やセットに制限のあるテレビの生ドラマということもある。リトヴァク自身が1930年代にフランスで作った『うたかたの恋』をリメイクしたものなのだが、オリジナルのフランス版の方は実に堂々とした傑作である。宮廷劇である『うたかたの恋』がなければ、『追想』も生まれてなかっただろう。

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 リトヴァクはチャレンジ精神が旺盛で、テレビドラマを試みただけでなく、ヌーヴェル・ヴァーグの時代にはリアリズムの『さよならをもう一度』を撮影するし、それから10年もしないうちに、フレンチ・ポップス全開の『殺意の週末』を監督してしまう。グレタ・ガルポの『喜びなき街』の助監督をしていた人がこれを撮ったと思うと、めまいがしてくる。『殺意の週末』は去年公開された『アナザー』と同じく、セバスチャン・ジャブリゾの小説『新車の中の女』を映画化したもので、これは浅岡ルリ子主演で日本のテレビドラマにもなっているらしい。この映画がリトヴァクの最後の作品となった。

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