アニ・ロラク

 9月にユジノサハリンスクでコンサートをしていたウクライナの女性歌手アニ・ロラクについて、コラムを書いた。

 岩本和久「アニ・ロラク」『北海道新聞』2017年10月30日夕刊、4面。

 ロシア語で歌うアニ・ロラクはファンもウクライナよりロシアの方が多いのか、ウクライナ紛争後もロシアでの活動をやめず、ロシア人歌手のコンサートがウクライナで中止に追い込まれるとそれに反対し、そんなことばかりしていたのでウクライナ愛国者たちからは裏切り者と非難されているのだそうだ。最近はウクライナでの活動をすっかりやめてしまったという。

 ウクライナやロシアのナショナリズムを一方的に批判するようなことはせず、「僕たちが見ていたのはそういう人のコンサートだったんだね、それも歴史の一頁だね」という感慨を文字にした。

初めての札幌ドーム

 せっかく仕事がない土日だというのに、家族を放り出して実家でノンビリしているのもよろしくないので、早朝の飛行機で札幌に戻り、午後は娘を連れてサッカー観戦に行った。

 先週のロシア・東欧学会で北大のT先生に、コンサドーレ札幌のJ1残留について熱く語られたので……今回を逃すと次のホームゲームは12月で、その頃はもうスキーシーズンが始まっているからサッカーには行くことはできない。

 娘にとってはこれが札幌ドーム初体験。私にとっても今シーズンは初のスタジアム観戦。札幌ドームまで歩いて行ける距離に住んでいるというのにいろいろと忙しくて、これまで足を運べずにいた。

 しかも、対戦相手はJ1首位の鹿島アントラーズセブンイレブンでチケットもらったら、レジのおばさんに「羨ましい」と言われましたよ。

 J1残留できるかどうかというチームが首位相手に勝つのは難しいのだけれど、それでも前半はパワープレイで攻め、再三のピンチをキーパーがしのぎ、0-0で終わった。で、後半開始早々、アントラーズがギアを上げて攻めてきて、あっさり点を取られた。

 その後の兵藤のミドルシュートが良かったね。スタジアムが盛り上がってね。結局、2-1で負けちゃったけれど、コンサドーレの奮闘も、最期の10分で出てきた小野の安定したパス回しも、アントラーズのすさまじい動きも見られて、娘にとっても想い出に残る時間になったのではないかと思う。

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50歳の同窓会

 皆さん50歳なので、ということで、中学校の同窓会が開催された。稚内という辺地の暮らしが長く、同窓会には縁のなかった私なのだが、札幌に越してきて故郷との距離も少し近づいたし、子どももスキーチームを移籍してあまり手がかからなくなったので、何十年ぶりかで顔を出してみた。

 しかし、何十年ぶりなのだが、ほとんどの皆さんが中学校の時と同じ顔をしている。いや、ビックリだ。60代も後半になれば、老人の顔になるのだろうが……。

 昔を懐かしんでばかりいても進歩はないわけなのだけれど、別の地方の別の業界で活躍している級友たちを見ていると、少し離れた場所から自分の人生を見ることができる。仕事でぶつかる壁が、無意味に思えてくる。自由に生きられる空間に戻れたような気がする。そういう視点は、大切なのだろうと思う。

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 80年代前半は日本中のあちこちに「荒れた中学」があった時代で、私たちの中学校も例外ではなかったのだが、私たちの学年は女子のリーダーシップが強く、秩序が保たれていたのだと、担任の先生が語っていらした。なるほど、大人の目から見るとそういうことになるのか。

 同じ学年のうち、すでにこの世を去った者が6人いるらしい。うち3人は距離の近い関係にあったので、残念だ。そのうちの一人は生前、「中学校の時が一番楽しかった」と言っていたそうなのだが、それもわかる。体罰だらけだったし、服装の管理も厳しかったし、いじめもあったし、シンナーを吸ってる奴もいたし、本当にろくでもない空間だったのだが、でも精神の自由は失われてはいなかったのだろう。

Carpe diem

 金曜日の1校時はスラヴニコヴァの「チェレパーノワの姉妹」を読んでいる。学部生には難易度が高すぎるのだが、あんまり簡単なテクストを選んでも「新しく来た先生、たいしてロシア語できないじゃん」と誤解されたり、「こんな簡単なテクストなら自動翻訳で充分だから、授業に出なくていい」ということになりそうだからね。こういう難易度の高いテクストは、コンピューターにはまず訳せないだろう。

 副動詞や形動詞がやたらと出てくるので、文法のおさらいにはなるはずだ。めったにお目にかかれない単語も多いので、「これは1~2年生のうちに覚えておくべき単語だから、知らないのであれば反省してください」、「これは今、覚えるべき単語」、「これはあまり使われない単語だから、今は覚えなくてもいい」と3種類に分けて伝えている。

 しかし、以前にさっと読んだ時には気づかなかったのだが、ゆっくり読むとこのテクストの密度には驚くしかない。町を沼地が取り巻いていて、沼地は植物に覆われて熊みたいに見えて、その上に立つと熊の腸の音が聞こえてくるような気がする、という内容がメタファーに次ぐメタファーで語られていく。こういう芸術の極みのようなテクストを朝から読めるのは本当に幸せなことだ。

 2校時は映画史の授業なのだが、昨日は『戦艦ポチョムキン』を見せた。やっぱりカメラのアングルが決まっているよな、もうそれ以外に言うことないよな、と思って見ていると、またしても幸せな気分になってしまう。

 やっぱり文学とか映画って良いものなんだよな。ただ、当然のことだが、こんな幸せな時間が人生の中でいつまでも続くはずはない。だから、今日という日を楽しまなければ。

Если жизнь тебя обманет...

 研究室から見える景色もすっかり秋である。

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 昨日は授業でプーシキンの "Я помню чудное мгновенье" と "Если жизнь тебя обманет" を読んだ。どっちも若い頃はあんまり理解できていなかったなあ。永遠に忘れられない束の間の恋とか、未来にしか希望を託せない辛い日々とか、そういう内容のものを学生に読ませるのもどうかと思うのだが、まあ、長い人生だからいつか思い出してもらえる日もあるだろう。