20世紀ロシア文化全史

 日本ロシア文学会の学会誌のために、ソロモン・ヴォルコフ『20世紀ロシア文化全史』(河出書房新社)の書評を執筆した。

 岩本和久「ソロモン・ヴォルコフ著・今村朗訳『20世紀ロシア文化全史』」『ロシア語ロシア文学研究』51号、2019年、82-88頁。

 強調したのは次の2点。

 (1)出版社のサイトでは「綺羅星のようなスター芸術家の肖像を、時の権力者との関係をふまえて物語性豊かに描いた」と紹介されている本書だが、重点が置かれているのは「綺羅星」よりも「権力者との関係」の方で、スターリンフルシチョフ、ブレジネフ、ゴルバチョフエリツィンというソ連指導者の存在感が芸術家以上に際立っている。

 (2)ノーベル文学賞や非公式芸術をめぐる東西冷戦期の叙述においては、「政治による芸術の迫害」というような単純な二項対立とは別の力学が強調されている。

 百科事典としてではなく、政治評論として読むべき本のように思える。