コルジェフの帰還

 ヴェネツィアで開催中のコルジェフ展について、北海道新聞にコラムを掲載した(岩本和久「コルジェフの帰還」『北海道新聞』2019年7月12日夕刊、4面)。また同展覧会についてもう少し詳しい報告を昨日、日本ロシア文学会北海道支部会で行った。

 「社会主義リアリズムの最後の巨匠」とも呼ばれるコルジェフだが、その絵が人の心をとらえるものであることは否めない。コルジェフ再評価の仕掛人であるトレチャコフ美術館のトレグロヴァ館長は、『コメルサント』紙のインタヴューでコルジェフとルシアン・フロイドを比較したり、公式芸術と非公式芸術の対立を批判したりしながら、コルジェフの絵の普遍的価値を確認しようとする。https://www.kommersant.ru/doc/4018943

 だが、シュールレアリズムを経由して具象絵画にたどり着いたルシアン・フロイドと、権力の作り出した枠組みに準拠して創作を行なったコルジェフとの間にはやはり「ずれ」があるし、またソ連崩壊とそれに伴う社会混乱を嘆いたコルジェフの1990年代以降の作品群は、イデオロギー的なプロパガンダの要素が皆無とはいえない。それに、コルジェフは21世紀になっても創作を続けていたのであり、つまり、その批判の矛先は私たちに向けられているのである。そのような作品にどのような態度を取るかというのは、それほど簡単な選択ではない。

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