ラブレス

 ズヴャギンツェフ監督『ラブレス』を見た。現代ロシア社会を理解するためには、必見の映画かもしれない。

 『アンナ・カレーニナ』は子供を取り合う話だが、これは子供を押し付け合う話だ。ネグレクトや児童虐待はもちろん日本にもあるのだが、そういう粗暴さとはちょっと違う。この映画の親たちは自己実現に夢中で、しかし、それは仕事や恋愛を通してしか成立せず、だから、子供が邪魔になってしまう。自分の仕事や恋愛は「成功の物語」として認識されているのに、育児はそうなっていないのだろう。

 日本では「子供に夢を託すな」というCMソングまで作られてしまったわけだが、正反対の世界だ。

 映画の親たちは双方が不倫をするほど社交的なのに、どちらからも同性の友達の存在を感じられない。同性の友達との連帯が人生を支えていたソ連映画『モスクワは涙を信じない』や『運命の皮肉』の世界とはまったく違う。

 そんな時代の変化を伝えるかのように、ソ連期の文化会館らしい建物の廃墟が、子供の秘密基地として登場していた。

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