雅司先生

 昨日は東大でチェーホフ・シンポ。予定調和的な形にならず、面白かった。
 ユジノサハリンスクチェーホフ博物館の館長代理のフィルソヴァさんはサハリンで暮らす流刑囚の子孫を追った映画を紹介していたが、逆に研究員のステパネンコさんの資料分析からはチェーホフの作品の「逃走」のテーマが顕在化していた。私はチャコフスキー『こちらはもう朝だ』という、第二次世界大戦直後のプロパガンダ小説とチェーホフの関係を論じたのだが、そこでの問題になっていたのもやはり、島からの「逃走」であったのだと、お二人の報告を聞いて思った。この小説自体が、戦後のサハリンへの移住をうながすものでありながら、チェーホフの「逃走」の主題がそこに浸透してしまっている。
 トリを飾ったのは渡辺雅司先生。30年前と変わらぬ爽やかな口調を聞けたのは、とてもうれしいものだった。