美を守る宮殿

 この春から『エルミタージュ美術館 美を守る宮殿』というドキュメンタリー映画が全国を巡回していて、札幌でも上映されていた。

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 さほど期待しないで見に行ったのだけれど、ロシア屋としては面白く見ることができた。エカチェリーナ2世が着たドレスがいきなり映されたりすると、歴史の本の中の出来事だった18世紀のロシアが現実として実感される。

 イギリスのウォルポール・コレクションの購入、1930年代になされたアメリカのメロンへの絵画売却といったエピソードからは、欧米という大きな世界の中の流れをせき止めるダムのようなものとして美術館が存在していることがわかる。そんなヨーロッパ文化への敬意は赤軍兵士にも共有されていて、ロシア革命の際にも絵画は破壊されなかったし、第2次世界大戦中、レニングラードが包囲されて絵画も疎開し、美術館が空っぽになった時には、額縁だけの残った展示室をソ連兵士が観覧し、学芸員が記憶で語るかつてそこに存在した絵の解説を聞いて感激したという有名なエピソードが残されることとなった。

 ロシア帝国の皇帝や学芸員赤軍兵士が美術館を守る側に配置される一方、美術館を破壊する側に置かれているのはドイツ軍の兵士や政治家だ。ドイツに占領された地域では文化財が破壊され、また政治家は美術品を売却したり、賓客に贈ったりしてしまうのである。

 その例外となる、美術を理解する政治家として賞賛されるのがプーチンだ。プーチンは「ニコライ2世以来のペテルブルグ出身の指導者」と映画の中で紹介されるわけだが、そこには皇帝の伝統に連なるという君主主義的な賛美と共に、文化都市ペテルブルグに生まれ育ってこそ正しい感性が養われるという自負がありはしないだろうか?子供の時から美術館に通うことで美的感性が身につくということが、映画の中で繰り返し強調されているので、そんなふうに疑ってしまう。

 ヨーロッパとの一体性、それから君主制の賛美、その2つを志向したこの映画がフランスやドイツではなくイギリスで作られたというのはうなずけるところなのだが、しかし、他国以上にプーチン体制を批判しているのもイギリスなのだよなあ。イギリスのふところが広すぎるということなのだろうか?

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