祈り

 昨日は朝6時から夜6時まで働きづめで、家に帰りたいところだったのだけれど、テンギス・アブラゼ監督の『祈り』を見に行った。シアターキノでは1日1回しか上映していないので、昨日を逃すともう見る機会がなさそうだったのだ。

 半世紀前に作られた映画といった程度の情報しか知らずに出かけたのだが、想像以上に重厚な映画だった。こんな骨太の映画を見たのは、本当に久しぶりのように思う。現代社会が忘れてしまった真摯な精神がみなぎっている。

 冒頭から顔のアップが延々と続く。それらはエイゼンシテインやドヴジェンコの影響だろうが、圧倒的だ。

 詩人の前に現れた女神が悪魔と結婚させられ、絞首刑に処されるという寓話、殺した敵の右手を切るという風習に従わないため村を追われるキリスト教徒、キリスト教徒を家に招いたため村人から迫害されるムスリム、という3つのエピソードから構成されている。主人公たちは破滅に追い込まれても信念を曲げず、信念を曲げなかった者の心は肉体が滅んでも消えないとされる。ローカルな文化をエキゾチックに描くのではなく、芯の通った生き方が示される。

 スターリンの死後15年も経たないうちに作られた映画だから、集団行動が悪や暴力に傾いてしまうという主題はスターリニズムの経験にもとづくものだろう。だが、そのような特定の時代や場所を忘れてしまうのは、純粋で強靭な精神が映画を支えているからだ。

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