森の中の廃墟
ズヴャギンツェフ監督の映画『ラブレス』について、『北海道新聞』にコラムを書いた。
岩本和久「森の中の廃墟」『北海道新聞』2018年6月15日夕刊、5面。
子供を放置して不倫に走るエゴイストの両親という現代日本社会にも通じる主題を描いた映画で、ロシアの親も子供を大切にしなくなったのかと変なショックを受けたのだが、社員の離婚を認めない熱心なキリスト教信者の社長とか、警察に代わって失踪者を捜索するボランティア組織とか、青木ヶ原樹海のようなとんでもない森が大都会モスクワの中に存在していることとか、ロシアならではの驚きもたくさん挿入されていた。
少年が隠れ家にするのはソ連時代の文化会館なのだが、パンフレットや公式サイトでは「森の中の廃墟」としか紹介されていなかったため、コラムではそれに焦点を合わせてみた。富も自由もなかったソ連だが、地域社会の中で文化活動が展開されるなど精神的にはそれなりに豊かだったのであり、恐らく50代以上の観客はそのことを思い出して、現代のロシア社会と比較するはずだからである。
ところで、コラムの横には水無田気流「児童虐待死に見る課題」という時評が掲載されている。「もっともっと あしたからはできるようにするから」という目黒の虐待死事件についてのものである。偶然にも子供がいなくなる話が並んでしまったわけで、書き手としてはさらに心が痛む。隣の紙面(4面)に躍る「ロシア5発 号砲」の大きな見出しはワールドカップ開幕戦の勝利を伝えるものだが、アイロニーなしに読むことはできない。
「樺太引揚者像」の検討
昨日の夜は北大のスラブ・ユーラシア研究センターで、「サハリン・樺太から北海道への引揚げ―『樺太引揚者像』の検討―」と題した講演を聞いた。講師はセンターの助教のジョナサン・ブルさん。話の中心は、1948年に函館引揚援護局が行った引揚者の座談会の記録の分析だった。
ブルさんはオックスフォード大学を卒業後、英語教師として枝幸町に滞在し、その時に樺太出身者の女性と話したことがきっかけで、このテーマに関心を抱くことになったのだという。私も枝幸のある宗谷地域に20年以上住んでいたので、そういう話を聞くと感慨深い。
今回の報告ではさほど触れられていなかったが、札幌の樺太出身者は講演のあった北大近くの北24条や私の家から遠くない月寒に居住することになったという。ふだん意識することはないが、やはり私たちの生活圏との強い結びつきを感じる。そんなこともあってか、講演には60人くらいの聴衆が来場していて大盛況だった。
少し暖かく
少し暖かくなりました。
午後は出張届を作ったり、本の登録をしているうちに、夕方になってしまいました。